”裸足の美学からの脱却”
1) 超一流への挑戦~これがダントツ人材の基軸だ
変革期の今、企業における「求める人材像」の基準は大きく変化しています。業績が低空飛行を続けている会社では、トップをはじめ、人事やマネジメント層が採用・教育・配置配属、昇進昇格の評価基軸を迷ったり、間違えたりしている場合がほとんどです。
そこで第1回目は、ダントツになるための正しい基軸をご紹介します。本質をまずしっかり理解いただき、この基軸に対する認識を一致させることから始めましょう。
以下の図が、私の考える人財のマトリックスです。
横軸にアウトプットを、縦軸に仕事への取り組み方(最短距離思考タイプか、もしくは全力疾走タイプか)を定義し、4つのタイプに分類しています。
I型 最短距離思考で、アウトプットを出すタイプ
II型 全力疾走で、アウトプットを出すタイプ
III型 最短距離思考だが、アウトプットが出ないタイプ
IV型 全力疾走だが、アウトプットが出ないタイプ
ここで言う最短距離思考とは、「生産性を追求し、いかに最小の労力で最大の効果を上げるかを考えること」を言い、全力疾走とは「とにかく量を追求し、額に汗して結果を出そうとすること」を言います。
さて、みなさんはどのタイプですか?また、あなたの部下はどのタイプですか?
これから順を追ってこの4タイプについて説明していきますが、その解説を読む前に、みなさん自身が今現在、どのポジションにいるか、まず頭の中でプロットしてみてください。ずばりI型とかII型とかではなく、II型のI型寄りといった感じで構いません。
自分がどのタイプかイメージできたところで、私が開発した「みこしマトリックス」を用いて、4つのタイプの説明に入りましょう。
夏の風物詩であるお祭りの「みこし」を思い浮かべてください。前述した4つのタイプをみこしに当てはめると、以下のようになります。
I型 みこしの「上に乗っている」人=リーダー
II型 みこしを「かついでいる」人=稼ぎ頭
III型 みこしを「観ている」人=評論家
IV型 みこしに「ぶら下がっている」人=足手まとい
I型のみこしの「上に乗っている」人は、みこしの上に上がり、かつぎ手に「あちらに行け、こちらに進め」と指示を出して、正しい方向性にみんなを導きます。「あの人についていけば、ちゃんとゴールにつける」と、周囲の信頼も厚いリーダータイプです。
II型のみこしを「かついでいる」人は、「あっちだ、こっちだ」と方向さえ示されれば、重いみこしを担ぎ上げ、そちらへ向かって「わっしょい、わっしょい」としっかり歩を進められる稼ぎ頭タイプです。ただし、一歩間違えると、おかしな方面に行く可能性もあるので、正しい方向性を指示できるトップやリーダーにつくことがポイントです。
III型のみこしを「観ている」人は、みこしが進んでいく様子を外から眺め、冷めた批判などを言うだけで、自分からは全く動きません。口はよく動きますが、足が動かないまさしく評論家タイプです。
IV型のみこしに「ぶら下がっている」人は、必死に重いみこしをかついでいるふりをしていますが、よく見ると、みこしにぶら下がっていたり、ほかの人の足を踏んでいたりと、かつぎ手のじゃまになっているありがた迷惑な足手まといタイプです。
いかがですか?4つのタイプの特徴を少し理解していただけたでしょうか?
いつも余裕のあるI型、いずれ体力の限界を迎えるII型
ここで、さらにしっかりイメージしていただくために、各タイプの行動・思考パターンを今度は「ヤブ蚊との勝負」を例に説明しましょう。部屋の中で蚊がいる時に、それぞれのタイプはどのように対策をとるのでしょうか?
I型は、蚊が入ってくる窓の網戸をまずきちんと閉め、次に室内に既にいる蚊を退治し、その後は蚊のいない部屋で過ごします。特徴的なのは、「なぜ部屋に蚊が入ってきたのか?」という現象面から根本的な原因をとらえ、それを本から断つ対策を打っている点です。
こうして快適な環境を自ら手に入れることで、いろいろなことに頭をめぐらす時間を作り出します。ほかの人の目にはそれがさぼっているとか遊んでいるとか、ずる賢いと映りがちですが、決してそうではなく、しっかり思考はしています。
II型は、「蚊だ」と思ったら、とにかく片っ端からたたいて、出てくる蚊、出てくる蚊をどんどん退治する、現象面に対処するタイプだと言えます。最初は両手を使って、真剣白刃取り。そのうち、どうしたらいかに効率よく蚊を退治できるかを考え始め、手からハエタタキへと移行します。
確かに「おれはやっている」と自分なりの充実感もあるし、はた目にもものすごく頑張っているように見える。結果、おびただしい数の蚊を始末できますが、ここが落とし穴です。なぜならば、窓が開いていることに気づかず、蚊が部屋に入り続けるため、際限がなく作業が続くのです。いずれ体力の消耗とともに限界を迎えます。
評論家タイプのIII型、周囲にダメージを与えるIV型
III型は、蚊が飛んできたら、蚊帳にくるまり、その中でじっとしています。確かに蚊には刺されませんが、身動きは取れないし、蚊も死んではいない。ただ蚊帳の外を眺めながら、「あの蚊はヤブ蚊だ」とか「あれにさされると2~3日かゆい」「この薬を塗ると、かゆみは治まる」といった評論ばかりしています。
ホームランの打ち方は解説できても、バッターボックスに立ったらヒットも打てないのが、このタイプの特徴です。一見やりそうに見えますが、あまり期待をしてはいけません。
IV型は、もともと反射神経が鈍いため、素手では殺せません。そこで包丁やバットを持ち出し、蚊を退治しようとしますが、根本的に使う道具が間違っているので、体力を消耗するだけで蚊は1匹たりとも死んでいません。それどころか、部屋は傷つけるし、ほかの人が入ってきたら危害を及ぼしかねません。このように、本人には悪気がないが、動けば動くほどほかにもダメージを与えてしまう、というのがIV型の大きな特徴です。
ビジネスの場面で言えば、できもしない値引きの約束をしてきたり、うっかり情報漏洩をしたりと、会社の信頼、ブランドを失墜させる動きをしてしまうのがこのタイプです。野放しにすると、かなりのリスクを伴うので、間違っても自由度を与えてはいけません。
以上、「みこしマトリックス」と「モスキート(蚊)マトリックス」の2つを使い、各タイプのおおまかな行動・思考パターンを解説してきましたが、イメージをつかんでいただけたでしょうか?
それぞれのタイプを経営側から見ると、I型は会社を正しい方向に導いていく大切で希少な「人財」、II型は稼ぎ頭として必要不可欠な「人材」、III型はただいるだけの「人在」、IV型は社内外に悪影響を及ぼす「人罪」と位置づけられます。
III型とIV型は結果を出しませんから、ビジネスマンとして欠陥があるのは誰でも分かります。では、I型とII型はどうでしょうか?
「小さなみこし」をたくさん持つ筋肉質の会社や組織が求められている
かつての高度成長期のようなイケイケドンドンの右肩上がりの時代で、トップがすべてを見渡せ、正しく指示ができる時には、II型が相当な活躍をします。彼らは目指すべき方向に一心不乱に走ってくれるからです。従って、日本企業では、II型が社内価値基準からすると、高く評価されやすく、今でもその傾向は続いています。
しかし、グループ経営やM&A(企業の合併・買収)が進み、国内から海外にマーケットが移ったことでグローバルに経済が動く、先の読みにくい現在では、ある方向にひたすら突っ走るII型主導のマネジメントでは対応できなくなってきました。そこで、今後ますます重要となってくるのが、みこしの上に乗って、変化の最先端でビジネスをプロデュースできるI型の存在なのです。
みこしの上に社長1人が乗り、すべて賄える時代は終わり、小さなみこしが社内外にいくつもある、筋肉質な強い会社や組織が今、求められています。
一般的にII型をビジネスの一流と呼ぶならば、I型は超一流ということになります。II型が「全力疾走で、結果を出すタイプ」のハイパフォーマーなら、I型は「最短距離思考で、結果を出すタイプ」スターパフォーマーです。
みなさんは将来、体力の限界まで走り続けるII型を目指しますか? それともI型のように常に余力を持って新しいことに挑戦できるようになりたいですか?
次回は、今回紹介した各タイプのビジネススタイルの特徴、特に「超一流」のI型と「一流」のII型の違いについてさらに詳しく解説していきます。