”裸足の美学からの脱却”
6) 靴も磨けないあなたが、自分を磨けるんですか?
今回は、善玉菌と悪玉菌のビジネス習慣の実態を解明します。そこから巻き起こる正と負のスパイラルや、大量放出される陽と陰のパワーが、組織のパフォーマンスに大きな影響を与えていることをしっかりと理解してください(善玉菌、悪玉菌についての説明はこちら)。
私は、これまで大手企業500社以上に、人を基軸としたビジネスコンサルティングをしてきました。その関係で、経営者や営業・人事のトップの方にお会いする機会が多いのですが、よく悩みを相談されることがあります。
悩みの代表例
- グローバルに戦える人財が少ない
- 新規や大型商談ができない
- ソリューションや付加価値サービスができない
- 将来の幹部候補がいない
など、人材に関してはどこの企業も悩んでいます。
そこで私が「問題が生じる理由は何だとお考えですか?」と聞いてみると、以下のような答えが返ってきます。
本人自己分析
- 社内の成功者や成功事例が少ない
- 競合他社との差別化ができていない
- 教育・研修制度が不足している
- 管理職やマネジャーが育っていない
- そもそもビジネス資質がない
理由は山のように出てきます。
こういった悩みを抱える企業に、私たちが実際に足を運んでみると、こんな印象を受けます。
我々の現場感想
- 挨拶はもっときちんとした方がいいのでは?
- その靴、いつから磨いてないの? どうしてズボンにプレスをしないの?
- 相手の会社のことを何も調べもせず、アポイントを取っているの?
- 話をするのは、本当にその人だけでいいの?
- 去年の今頃と比べて、自分が成長しているかどうか、考えたことはあるの?
前出の悩み事を相談する前に、ビジネスパーソンとして当たり前のことができていないのでは?と言いたくなるようなことが多く見られます。
まさに、悪玉菌のビジネス習慣が組織にはびこり、悪影響を及ぼしているのです。この実態をトップに報告すると、必ず“どうしたらよいのか”、そして“何とかしてくれ”という話になります。
そこで、まず私は、組織パフォーマンスに大きく影響している善玉と悪玉のビジネス習慣の話を、次ページのビジネスサイクル図を使って説明しています。
世間では、一般的にPDCAを取り入れているところが多いですが、私は独自の「前・中・後」、「シナリオ(S)・アクション(A)・レビュー(R)」のSARサイクルでビジネス習慣を調査・分析しています。
まず、SARサイクルの基本原理を説明しましょう。
ビジネスでは、シナリオ→アクション→レビューのサイクルが常に連続しています。
フロー1:シナリオ(前)→アクション(中)
ここでは、必ずシナリオ>アクションが成立します。実際のビジネス現場では、自分たちが思い描いたシナリオ通りにならないことがほとんどだからです。たまに予想以上のことが起こりますが、基本的には、シナリオよりアクションが大きくなることはないのです。
フロー2:アクション(中)→レビュー(後)
ここでは、大きく2つのタイプに分かれます。1つはしっかり自己レビューする善玉菌の習慣タイプ。もう1つは、レビューしないで他者に責任転嫁してしまう悪玉菌の習慣タイプです。自立している善玉菌タイプばかりであれば経営者は苦労しませんが、そんな会社は、今までお目にかかったことがありません。
フロー3:レビュー(後)→シナリオ(前)
ここでは、レビュー内容に比例して次のシナリオの質やスケールが決まります。シナリオは、このレビュー次第と言えるでしょう。
組織をSARサイクルで診断すれば強化ポイントが明確になる
不思議なことに、以下で説明するシナリオ、アクション、レビューの3つのプロセスについて調査・分析できれば、その企業の体質や体調が鮮明に見えてきます。そこから、自分の会社のビジネス習慣の実態を客観的に把握したうえで、次に組織やチームごとの強みや弱みなどをそれぞれ抽出していきます。
こうして現状の洗い出しをすることで、組織力を根底から強化するための「弱点克服メニュー」と、「重点ポイント強化メニュー」の2つを作ることにしています。そして最後は、この2つのメニューにあった、ヒット率の高い教育・研修・コーチングなどを選択し、実践していただくことで、その企業オリジナルの体質強化法を実現しています。
では、シナリオ(前)・アクション(中)・レビュー(後)について、それぞれ詳しく説明しましょう。
■シナリオ=前とは、ビジネスの基礎を理解したうえで、戦略を策定し、それに基づく目標設定と具体的な戦術、および達成のための事前準備のことです。シナリオのクオリティーがアクションをもたらす成果の8割を占めていると言っても過言ではないと思います。
→成果の生みの親はシナリオである
■アクション=中とは、ターゲットしたマーケットや企業、顧客に対するアプローチから、商談を成功させるまでの具体的行動のことです。当然、アクションの精度が、成果に直結しています。多様なビジネススキルとパワーを持ち合わせたビジネスパーソンが断然有利であることは間違いありません。
→ビジネススキルはアクションスターを生み出す
■レビュー=後とは、事前に書いたシナリオとアクション後の結果に対する自己分析に基づいた内省、フォローや管理、そして次回のシナリオを作成するまでのことを指します。レビューするのかしないのか、自己責任でとらえるか、他者責任にしてしまうのかで、次回のシナリオやビジネス人生そのものに大きな差を生み出す重要な作業です。
→レビューが善玉習慣と悪玉習慣の分かれ目になる
ここからは、SARサイクルの中で、善玉と悪玉のビジネスパーソンがもたらす正と負のスパイラルと、陽と陰のパワーについて説明します(前回ご紹介したチェックシートの自己診断結果と照らし合わせてお読みください)。
正のスパイラルで陽のパワーを放つ善玉菌自己責任スタイル
常に健康に気を使っているこのタイプは、体が喜ぶものを中心に食生活を送っています。しかし、それでも時にはおなかを壊したり、体重が増えて太ってしまったりして、体調が悪くなることがあります。
この場合、悪玉菌が体内に入ってきたことを察知し、何がいけなかったかをしっかりレビューし、原因を自己責任で追究するタイプです。行った店がよくなかったのか、それとも自分が選んだメニューがよくなかったのか。あるいは、飲みすぎたのか、食べすぎたのかなど、あらゆる原因を想定し、すべてを自己の責任ととらえ、同じことを繰り返さないためにどうしたらいいかを考えます。
そしてあの店には行かないようにしよう、肉を減らして野菜を多く取ろう、今週はお酒を控えて睡眠を多く取り、運動量も増やそうなど、すぐに次の対策を打ち、実行します。
そうすることで、正のスパイラルに入り、健康で強靭な体を保ちます。一言で言えばこんなタイプです。
毎日、体重計に乗り、体質・体調の変化をチェックするタイプ
ビジネスも同様です。
常に成果に気を使っているこのタイプは、顧客やマーケットが喜ぶことを中心にビジネスをしています。しかし、それでもうまくいかなかったり失敗したりすると、モチベーションが下がり、パフォーマンスが落ちることはあります。
しかし、こういった場合でも、なぜシナリオ通りに進まなかったのか、しっかりとレビューし、原因を自己責任で追究するのがこのタイプです。
自分の提案の内容なのか、説明の仕方なのか? 自分の薦める商品やサービスそのものなのか? ポイントがずれているのか、しゃべりすぎなのか?ニーズがないのか、訪ねた人が間違っていたのか…など、同じことを繰り返さないために反省します。
そして、もっとお客様の情報を調べよう、素直に関心事を聞いてみよう、ニーズをしっかり理解したうえで提案をしてみよう、プレゼンの練習をしてみよう、人脈を調べ、味方になってくれる人を探そうなど、すぐに次の対策を打ちます。
レビューをすることで、次のシナリオが上質になり、前と後の両輪が次第に大きくなります。こうなると、必然的にアクションのヒット率が上がり、当然成果も大きくなります。こうして自分に実績や自信が出ると正のスパイラルに入り、組織内で陽のパワーを放出するようになって、社内によい気をもたらすムードメーカーになります。
負のスパイラルで陰のパワーを放出する悪玉菌他者責任スタイル
あまり健康に関心のないこのタイプは、その日の気分だけで食生活を送っています。日々の積み重ねが将来年齢を重ねた時の大きな差になることなどあまり考えていないのです。
そんな無防備な生活を送っていると、知らないうちに負のスパイラルに入り、体調を崩し病弱な体質になっていくのです。一言で言えば、こんなタイプです。
毎日、脳天気、今がよければそれでいいのだタイプ
ビジネスも同様です。
成果に対し、関心の薄いこのタイプは、相手のことを考えずに自分のことだけを押しつけようとします。当然、物事はうまくいきませんが、なぜうまくいかなかったのかを考えないので、また同じことを繰り返すのが特徴です。
こうして、失敗を続けると自信をなくし、モチベーションやテンションも下がり、いつの間にか負のスパイラルに入っていきます。
このタイプに成果が出ないのはなぜですか、と尋ねると、商品やサービスが悪い、会社のサポートが足りない、スタッフやメンバーが悪い…、しまいには、景気が悪い、お客がよくないなど、よくここまで言えるものだとあきれるくらい他者に責任を転嫁します。
放っておくと、会社の悪口、商品やサービスの悪口、人の悪口といった毒ガスを吐き、組織の中に陰のパワーを充満させ、社内を嫌なムードにしてしまいます。
さあ、みなさん。早急に自分のビジネス習慣やマネジメント習慣を洗い出し、善玉菌のビジネススタイルを今のうちに身につけておきましょう。
次回からは、これまで説明してきた4つのタイプ、超一流と一流、善玉菌と悪玉菌の相関関係を説明し、いよいよまとめに入ります。